「町田くんの世界」感想
町田くんの世界、みた。すべての人に優しく接する町田くん。その平等な愛はまわりのみんなを幸せにしていくが…そんな彼に恋する猪原さんは想う。その思いやりを、私だけに向けてはくれないの?と。恋する女の子ってステキだなあと思わせる、関水渚の演技が最高でした。当時みんなが熱狂したのも納得。
人に優しくなれない氷室くん(岩田剛典)にたいする町田くん(細田佳央太)の言葉がいい。「僕だって人の気持ちなんてわからないよ」「難しいけど、頑張って想像しないと」と。誰かを好きになる。その先にある、誰かを愛することとは、まさしく「想像」であり、悪意渦巻く世界への抵抗なのだと。
町田くんの沼にずぶずぶハマっていく猪原さん(関水渚)がとってもいい。あの人はいま何を考えてるの?さっきの「好き」はなんの「好き」?こっち振り向いて微笑んだ意味は…?一挙手一投足が気になって仕方ない。目が合うだけで心がかき乱される。戸惑う彼女の恋の、なんとあざやかなこと。
彼女の演技のバランスの良さ。怒った時はドタバタ歩き、イラつけば貧乏揺すりをする。うれしい時は感情がだだ漏れ。そんなコミカルでデフォルメされた動きと、すれちがい続ける恋心に困惑し、悶々とする切実さ、ある種の虚しさとの、バランスがとてつもなく素晴らしい。そして全部がかわいい。
脇役もツワモノぞろいなのだが、まったく押し負けることなく、むしろ町田くんと対になる、唯一無二のかがやきを放つ。町田くん=細田佳央太は、これまた嫌味のないピュアさ!わざとらしくなく、彼にはもうそうとしか世界が見えてないのだと信じさせてくれる。会話の間や、ことばの強弱の上手さ。
前田敦子は納言・幸のような立ち位置。姉御的な感覚でツッコミを入れるけど、それが妙なボケにもなっているという。彼女は見るたびに面白い発見があって、本当に魅力的な俳優だと思う。仲野太賀は「この恋あたためますか」も良かったが、身体全体の表現がいい。作品のメリハリになってる。
町田くんのお母さんが松嶋菜々子である必要はまったく感じなかったが、北村有起哉や佐藤浩一など、やたらと豪華な脇役たちが、この荒唐無稽な世界に、ちょっぴり濃い目の味付けをしてくれる。池松壮亮は「ウィーアーリトルゾンビーズ」に続き、子どもたちを観察し、また、介入する大人の役回り。
あのクライマックスは「天気の子」を思い出しましたね。もう一度会いたいって気持ちが、町田くんを空まで飛ばしてしまう。そして、そんな彼を助けるために、学校中のみんなが手を貸してくれる。情け人のためならず。「自己中であれ」と言っているのではない。優しさの連鎖の果てのハッピーエンド。