映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「聖なる犯罪者」感想

f:id:StarSpangledMan:20210222002429j:image

聖なる犯罪者、みた。神父を夢見る前科者のダニエル。転がり込んだ教会で司祭のフリを始め、村人の信頼を買い取っていくが…。危ういならず者にも、イノセントな神の使いにも見える、ダニエルの瞳。この脆くも暴力的な佇まいが、強烈に魅力的。「幸福なラザロ」を連想する重層性。いやぁ、面白かった!

ダニエルの説教は妙な力を持っている。聴く人の心を掴むなにか。彼にはまちがいなく神父の才能がある。しかし、前科があるゆえにその夢は叶わない。ある意味、制度に邪魔されているわけだが、一方で、ダニエルの言動は、聖職者という観点で見ると、やはりかなりおっかない。頭突きで信者倒すし。

そこで(最初は自分の意思でなかったとはいえ)偽物の司祭として活動を始める。彼は信者だけでなく、神にもウソをついている。祭壇の前に立つとき、彼は神様を欺いているのだ。キリスト教に詳しいわけではないが、それだけもうかなり罪深いのではないか。居てはいけない人間がそこに居るスリル。

主人公がウソをつき続ける話は最初から最後まで居心地が悪く、ソワソワしてしまう。ウソがバレずに終わることはほぼないし、映画の中の誰かが必ずいちどは傷つくからだ。「ライアー×ライアー」もそうだった。「聖なる犯罪者」はコメディにも振り切れるシチュエーションだが、その重みは最後まで残る。

いちばん面白いのは、アウトサイダーゆえにダニエルが村のタブーの突破口になっていくところ。それは単に彼が根が良いからとか、生来の直情的な性格が災いして…という結論には収束しない。ムカつく町長への反発や、ほんのり好意を寄せるマルタにカッコいい姿を見せよう、みたいな邪な動機も絡んでる。

基本的にダニエルは調子の良いガキだし、俗っぽい感情が根っこにある人間なのだろう。たまたまあの村の人たちにハマったからいいけど、ほかの土地でも首尾よく聖職者を偽れていたとは思えない。すべてが不幸にもうまく噛み合い、幸福にも綻んでしまった、ということなのだ。そこに映画の厚みがある。

ダニエルはどこでこんなにぴったりの俳優見つけて来たの?と思うレベルにうまい。彼の演説シーンは、真正面からダニエルを捉えるバストショットが選択されている。彼は会衆席の信者ではなく、スクリーンの先にいる僕たちを見て、語りかけているのだ。だからぐいぐいと引き込まれてしまう。

マルタの薄々ダニエルの背景を察している(少なくとも過去に何かがある、ふつうの聖職者でないことは勘付いている)まなざしがいい。おそらく、スマホの動画を見た彼が「この薬物は検査では引っかからない」とこともなげに言ったとき、心の奥底ではわかってしまったのではないか。すごい目してたから。

また、彼女の母親の疑いはより強い。常に監視するような目でダニエルを見ている。この演技がすごくいい。いつかダニエルのすべてが崩壊するかもしれない予感と緊張感を、映画に与えている。「目は口程に物を言う」と言うけれど、思い返してみるといろんな人の目が印象的な映画だった。大傑作!