映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ちょっと思い出しただけ」感想

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ちょっと思い出しただけ、観た。しんどいな〜。「花束みたいな恋をした」より個人的には刺さった。照生は毎朝あの地蔵の前を通って仕事に向かう。一方、葉の仕事道具であるタクシーは新しくなっている。この差がふたりの違いなのだと思う。コロナ禍前の日常の手触りを思い出させてくれる作品。

そろそろ白けてきたな〜みたいなつまらない飲み会も、ゴチャゴチャした立食パーティーも、いまや遠い過去の思い出のようだ。オリンピックが来る!と息巻いて勉強した中国語を使う機会はないし、なんでも我慢できるぐらい楽しかったダンスは怪我で諦めざるを得なくなってしまう。

この映画の意地が悪いと言うかズルいところは、そうやって最初に「コロナ禍」や「怪我」などうまくいかなかった結末を見せておいて、そのあと過去を遡る形で、そうなる前の夢に目を輝かせていた頃を見せることだ。言わずもがな、ふたりの男女の関係性についても、である。

いま楽しいことはこのまま続くと思うこと、未来はきっと明るいに違いないと信じること。この無邪気さを失うとき、それは青春の終わりと言っていいのかもしれない。タクシーでモシャモシャとコンビニ飯をむさぼる葉の丸い背中の切なさよ。この人の青春はもう終わっているとわかる。伊藤沙莉の熱演。

照生の誕生日を軸に物語が進む。大切な人の大切な日。去年の今頃はどうしてたっけ。来年は一緒に過ごすのかな。嫌でもそんなことを考える。松居大悟、いやらしいところに目をつけたな、と思う。過去作のような「飛躍」はないが、「くれなずめ」のように「こう言う瞬間ってあるかも」と思わせてくれる。

本業が俳優ではない二人がいい味を出している。クリープハイプ尾崎世界観は、間違いなくあの二人の世界の住人である。そして、ニューヨーク屋敷。「芸能人と付き合いたいっすよね」って、それ「あちこちオードリー」で言ってたやつじゃん笑 しかし、良くも悪くも軽いキャラがハマっていた。

松居大悟の作品って、ちょっと臭いところもあり、クリープハイプを主題歌に選ぶあたり、新海誠におけるRADWIMPSのような汁っ気を感じなくもないのだが。水族館のデートとか、横浜を走るタクシーでの一連のやり取りとか。「ナイト・オン・ザ・プラネット」は未見だが要チェックだな。

ほかのジャームッシュ作品では「パターソン」の影響を大きく感じる。ベンチに意味ありげに座る永瀬正敏とか、ベッドで眠る照生の反復なんて、まさしくこのポスターでも取り上げられている演出だ。パターソンの仕事もそういえばバス運転手だったな。葉はタクシー運転手だったけど。

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