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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」感想:好き勝手暴れる軍人たちも組織人

こんにちは。じゅぺです。

今回は「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」について。

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ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」は、麻薬カルテルとの壮絶な戦いを描いた「ボーダーライン」の続編です。今回は、国防省が麻薬カルテルを弱体化させるために、秘密工作によってカルテルに内戦を起こす作戦を立案するところから始まります。すぐに終わるはずだった秘密工作は失敗し、マットとアレハンドロは人質として確保していたカルテルのドンの娘・イザベルをメキシコの親元に返す決死の作戦に打って出ます。

もはや善か悪かではなく、殺すか殺されるかの戦い。犯罪の取り締まりを超えて、完全に戦争です。ミサイルや装甲車は当たり前に出てきますし、マットとアレハンドロも作戦を邪魔すると見なせば誰彼構わず射殺します。そこに「正義」はありません。いつしか何のために戦っているのかすら曖昧になり、ただひたすら「負けない」ために人を殺すようになります。本当に恐ろしいことですが、アメリカという国は昔からずっとこういうことをやってきているんですよね。今回の作戦は明らかにこれまでアメリカがCIAを介して行ってきた秘密工作を意識したものになっていて、非常に皮肉が効いています。

前作で「そこまでやるか?」と叫びたくなる蛮行の数々で観客をドン引きさせてきたマットたちですが、今回は政治の世界と現場の声の間で板挟みになります。超法規的な措置で好き勝手やる軍人たちもしょせん組織人なのが悲しいところです。人の命のかかっている最前線でもこの有様なのか。作戦が失敗したのがバレたくないから、邪魔になったイザベルとアレハンドロは始末しろと。保身のために人殺しを命じる、完全に麻痺した世界の中で、最後の一線だけは越えまいと葛藤する姿が苦しいです。前作以上に、彼らの人間くさい部分が押し出されているように思いました。一応、人の命を救うかどうか悩むぐらいには心を失っていなかったんですね。本来憎しみ合うはずのアレハンドロとイザベルが地獄を生き抜く中で信頼関係を築いていく様も、まだ希望は捨てなくていたのではないかと少しだけ温かい気持ちになりました。結局、それは裏切られるわけですが。

一方、ヴィルヌーブ作品の芸術性は消えてしまい、密着取材ドキュメンタリー的な面白さとは違ったベクトルの魅力を持つ作品になっていました。彼らがなにを大事にして、どこまでを守ろうとしているのかをより深く描いていましたね。この腐った環境に慣れきったおっさんたちが奮闘する一方で、純粋さを失っていく二人の子どもの対比も良かったです。特にイザベルの目からだんだんと生気が引いていくのが恐ろしかった。あの子生意気なボンボン感は何処へ、といった感じです。演じるイザベラ・モナーの表現力も光っていました。

本当に子どもが辛い目に遭ったり、痛めつけられたりする映画は、見ていて胸が苦しくなりますね。未来に希望が持てなくなります。終わりなき地獄、負の連鎖に絶望的な気持ちになりました。劇場を出たあと脳裏に浮かんだのは、冒頭の国境警備の場面とメキシコ国境に向かうキャラバンたちのニュース映像でした。いったい、いつまでこの絶望的な状況は続くのでしょうか。