映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「新幹線大爆破」感想:テンポの悪さが惜しいパニック映画

こんにちは。じゅぺです。

今回は「新幹線大爆破」について。

f:id:StarSpangledMan:20181205114358j:image

新幹線大爆破」は、新幹線に仕掛けられた爆弾に翻弄される人びとを描くパニック映画です。国鉄・警察、犯人グループ、新幹線の乗客の3つの観点から事件が切り取られ、それぞれの思惑が交錯するドラマが緊迫のサスペンスを生んでいます。

この映画を見ていていちばん共感するのは、やはり国鉄・警察側の人びと、特に宇津井健演じる国鉄管制官でしょうか。絶体絶命のピンチでも全力を尽くすプロたちの姿がカッコよかったです。専門知識を使って戦える人っていいですよね。まさしくお仕事映画の本作に出てくる国鉄や警察の職員には「ブリッジ・オブ・スパイ」や「ハドソン川の奇跡」のトム・ハンクス的な仕事人オーラが漂っています…と言ったら、言い過ぎでしょうか。

また、時限爆弾騒動で大混乱に陥る乗客側の描写も対照的で面白い。仕事に遅れると大騒ぎする人、突然産気づいてしまった妊婦、格好のスクープとカメラを回す撮影クルー。そして、彼らと国鉄上層部の間で板ばさみになる現場の職員の苦しい立場には思わず同情してしまいました。死にそうな顔してる運転手が特に最高です。

新幹線大爆破」は単なるパニック映画には終わらず、最終的には「いかに被害を最小限に抑えるか」という現実的な問いから、正義とは何かを描く社会派な切り口も見せはじめます。こういう時に損をするのはやはり現場の人びとなのかもしれないなあと、思ってしまいますね。上の人間は簡単に「責任を取る」というけれど、多くの人の命を見捨てることになるかもしれない指令を出すのは、やはり現場で働く人なのです。先日映画館で見た「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」を思い出してしまいました。お偉い人はいつも情けないんです。それでも、自分の身は自分で守らなくちゃいけないんですね。

さらに、この映画では「高度成長期に取り残された人」の叫びと絶望も描かれています。高倉健演じる犯人の主犯格(めちゃくちゃ渋い!)がどうしてこのような凶行に及んでしまったのか、という謎が映画のもう一つの大きな柱になっているのです。明るい記憶しか語り継がれないのでイメージしにくいですが、1億総中流の枠に入れなかった人びともいるのです。そういえば、坂本九主演「上を向いて歩こう」も豊かになっていく社会で周縁化された若者の話でした。映画という媒体は、このように時代の空気感を真空パックのように閉じ込めてくれるときがあって、勉強になります。自分がすでに生まれている頃の映画であれば、当時の感覚を呼び覚ましてくれることもありますよね。

話を戻しますが、この映画は脚本のバランスが良くて、犯人側に情が移りかけたタイミングで妊婦に異変が…という具合に、あまり片方に入れ込みすぎないように構成されています。あくまで彼らがやっていることは犯罪であり、いくら社会に問題があると言えども、取り返しのつかないことをしてしまったのだということを強く印象づけさせています。

しかし、一方ですべての人物のドラマを描いているので、テンポがあまりよろしくありません。本作は国内よりも海外の方が評価の高い作品だそうです。というのも、海外公開版は犯人グループ側のドラマを削ってカタルシスを重視した短縮版だそうで、国内公開版とは若干中身が異なるようです。そっちの方がわかりやすいだろうし、緊張感も違うだろうと思います。綿密に話を積み上げている分、冗長になってしまっているんですよね。重厚なストーリーとテンポの良さは必ずしも矛盾しないとは思うのですが、本作の場合、残念ながら編集のまずさが映画の面白さをそぎ落としています。

ドラマパートの緊張感も、特撮を駆使したリッチな映像の迫力も素晴らしくて、すごく楽しめた映画なのですが、このテンポの悪さが引っかかってしまいました。個人的にはとっても惜しい映画だな〜という感想です。