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「シンプル・フェイバー」感想:アナ・ケンドリックとブレイク・ライブリーの絶妙な配役について

こんにちは。じゅぺです。

今回はポール・フェイグ監督最新作「シンプル・フェイバー」について。

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「シンプル・フェイバー」は、リブート版「ゴーストバスターズ」のポール・フェイグ監督によるサスペンス映画。ダーシー・ベルの「ささやかな頼み」を原作としています。主演はアナ・ケンドリックブレイク・ライブリー。本作の魅力の9割はこのキャスティングによって支えられていると言っても過言ではないでしょう!

 

「シンプル・フェイバー」のあらすじ

シングルマザーのステファニーが息子の同級生の母親・エミリーとママ友になるところから物語は始まります。小説家の夫を持ち、ニューヨークのファッション会社で働くキャリアウーマンの彼女といつも笑顔で家庭的なステファニーは対照的な性格・生活状況ながらも、お互い秘密を打ち明け合うほどに仲良くなっていきます。しかし、エミリーはある日突然姿を消してしまうのです。彼女の行方を探す中でステファニーはエミリーの華やかな生活の裏に隠された秘密を知り…。真実に近づくにつれ二転三転するストーリーがなかなかエキサイティングなサスペンスミステリーになっています。

 

絶妙すぎる配役

アナ・ケンドリックブレイク・ライブリーの配役が絶妙です。友情にじわじわと毒が染み渡り、失望や怒りにまみれただまし合いに発展し、ホンネとタテマエの境が崩壊していく様を、二人は見事に演じています。なにより事件を通して明らかになる「二面性」が、まさしく二人の女優としてのイメージの裏返しになっているのです。

 

「小動物」と「強者」

たとえば、アナ・ケンドリックって小動物感があって、あえて当てはまるならばリスみたいなイメージってあると思います(僕だけ?)。控えめだけど、愛嬌があってみんなに好かれる雰囲気。学校の行事にも主体的に参加し、ブログでは主婦業のコツを伝道する。「ステキなママ」になろうと奮闘する様は、そんな彼女のイメージにぴったりです。その空回り気味の努力家っぷりで、無意識のうちに敵を作ってしまっているところを含めて、「アナケン」っぽいキャラクターなのです。

一方のブレイク・ライブリーも、ミステリアスで簡単には打ち解けられなさそうな、その完ぺきさゆえに人を寄せ付けない「強さ」が、そのままエミリーというキャラクターに重ねられています。けっして取っつきにくいわけではないが、彼女より「弱い」側の人間は壁を感じてしまう。そういう孤高な輝きをブレイク・ライブリー=エミリーは放っているんですね。アナ・ケンドリック=ステファニーとの掛け合いのヒリヒリとした緊張感は、はじめから予定されているものなのです。アナ・ケンドリックブレイク・ライブリーも「胡散臭い笑顔」ができる女優さんなのだなと思いました。表向き穏やかだけど、じつは牽制しあっている。そういう空気感は、二人の間でこそ生み出せるものなのかもしれません。

 

二人のかぶる仮面

そしてステファニーが「探偵」となって徹底的に事件をほじくり回すことで、徐々に「ホンネ」が明らかになり、二人の間の溝はどんどん深まっていきます。ステファニーの服装は華美になり、言動にもエミリー顔負けの度胸が出てきます。一方のエミリーはストレスでやつれ、なりふり構っていられなくなった彼女の顔には明らかな焦りが浮かんでくるのです。正反対な人間との出会いがもたらす変化が、ここに現れています。アナ・ケンドリック=ステファニーのちょっと無理をしているような笑顔は、裏切りと欺瞞への怒り、燃え上がる復讐心を隠す仮面に見えてきます。小さな見た目に騙されては危険。甘く見てるとヤケドする、強化版エミリーの様相を呈してきます。

ブレイク・ライブリー=エミリーの方はというと、これまた複雑な事情を抱えていました。彼女には、かつて抑圧的な父から逃れるために、放火と殺人の罪を犯し、仲の良かった双子の姉とは生き別れになった過去があるのでした。ブレイク・ライブリー=エミリーの勝ち組オーラ、圧倒的な余裕感の裏には、誤魔化しきれない欠乏感と悲しみ、上へ上へという満たされない向上心が隠れていたのでした。彼女もまたステファニーのように仮面をかぶっていたんですね。

 

と、まあ途中までは面白く見ていたのですが、肝心の解決パートでバタついてしまい、全体としてはいまひとつの印象です。ひとの愚かさに対してしっかり距離を保ってるというか、ブラックコメディなのに露悪的になりすぎないバランス感覚だったり、ほどよい昼ドラ感があったり、粒ごとに見ると良いんですけどね。ファッションもオシャレですが、ポスタービジュアルのインパクトは上回ってないと思いました。「search/サーチ」を思い出すSNS設定も興味深かったです。肩の力抜いて見れますし、たまにはこういう映画もいいかなと思いました。