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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ファントム・オブ・パラダイス」感想:喜怒哀楽の交差するステージで

こんにちは。じゅぺです。

今回は「ファントム・オブ・パラダイス」について。

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ファントム・オブ・パラダイス」は、オペラ座の怪人ファウストを元にしたロックミュージカル映画です。監督は「ミッション:インポッシブル」等での馴染みのブライアン・デ・パルマ。彼のフィルモグラフィーの中でもカルト的人気を誇る作品です。たしかに結構クセが強いですね。そこそこ見る人を選ぶような気がします。ハロウィンの仮装みたいな風貌の怪人やロック音楽が独特の臭いを放っていて、隣で見ていた僕の家族は拒絶反応を示していました。なんとなくわかります。

お話は、愛に渇望する怪人と、悪魔と契約した孤独な男と、夢のために自分を売った女、そして人の死すらエンタテインメントとして熱中する観客たちを冷ややかな目で見つめ、やがて取り返しのつかない事件に発展していく様を描いています。

誰も幸せにならない話なんですが、特にスワンから受けた不当な扱いの末、気が狂ってしまった音楽家・ウィンスローが悲惨です。もともと友だちが多いわけでもなく、挙動不審で明らかに「モテない」タイプの彼は、舞台女優志望のフェニックスちゃんに片想いをしてこじらせに拍車をかけてしまいます。フェニックスちゃんは歌もうまいし可愛いので気持ちはわかります。正直、はじめから二人が深い関係になるようには思えませんが、スワンの策略によって仲を引き裂かれ、さらには不慮の事故によって怪人の姿でしか生きられなくなったことによって、ウィンスローのフェニックスちゃんへの渇望感はさらに大きなものになります。彼は自分がフェニックスちゃんに見向きもされず、全く日の目を浴びないのは、ぜんぶスワンのせいだと思い込んでいるのですね。それは正しくもあり、間違ってもいるのですが、スワンの残酷な仕打ちによって、彼の中で世間の喝采とフェニックスの愛への執着は肥大化し、心を蝕んでいきます。フェニックスちゃんのセックスを覗き見する彼の悲痛な叫びは忘れられません。

承認に飢えた男が、声を奪われ、顔を傷つけられ、最後に心まで殺される。本当に悲惨です。憐れです。情けないです。そんな彼がフェニックスちゃんのためにステージに乗り込む姿は泣けます。最後まで自分が幸せになれると信じていたんですね。

しかし、実のところウィンスローだけが被害者なのではなく、スワンとフェニックスも欲を満たすために悪魔に自由を売っていたんですよね。どこにも逃げ場はないのです。どこを向いても地獄です。ただでさえサイボーグ化したウィンスローの設定がへんてこりんなのに、悪魔との契約も登場するので見ていて頭が混乱しました。最初は現代劇かと思って見ていましたが、これが想像以上にファンタジーなんですよね。ここにロックミュージカルが混じってくるので、本当になんでもありです。

この闇鍋感とテンションがマックスに到達するのが、クライマックスです。たくさんの人間が入り乱れ、呪われた男たちが次々と命を落とすステージは本当に興奮しました。なにがなんだかさっぱりわからないカオスな空間です。原色が刺激的な安っぽい衣装に、サイレント映画のようなうすっぺらい奥行き、そして毒々しい音楽。舞台の狂乱に頭がクラクラしました。もはや喜怒哀楽がグチャグチャに混線して誰にも整理できなくなってしまうわけです。本当にこの世は地獄ですね。そしてわけわからんテンションのままエンディングに突入します。

前半はちょっと退屈だし、お話のエンジンがかかるのも遅いのですが、クライマックスの熱と狂気ですべてのモヤモヤが吹っ飛びます。あのテンションは天才ですね。すばらしい音楽映画でした。