映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「アシュラ」感想:男社会の光と陰

こんにちは。じゅぺです。

今回は「アシュラ」について。

f:id:StarSpangledMan:20181029193514j:image

「アシュラ」は市長・検察・警察の三つ巴の争いと権力の腐敗を描くサスペンス映画です。

この映画、見事に男しか出てきません。オスだけで回る社会です。そして等しく全員愚かでした。悪徳市長と彼の検挙を狙う検察、その間で板挟みになる刑事。全員自分のことしか考えないし、金と暴力で物事を解決しようとします。

結局のところみんな誰かの手下でしかなくて、「長い物には巻かれろ」「寄らば大樹の陰」なのです。どれだけいばり散らしても上には上がいます。そして、そんな社会でもがいてるうに、なにも思い通りにいかないまま人生どん詰まりになっていくのです。しかし一方でプライドだけは膨れ上がって、意地を張っては自分で道を塞いでいく。

全然救いのない話ですが、中でもファン・ジョンミン演じる市長が強烈でした、すさまじいです。人間の悪いところの塊のようだと思いました。すこしも同情の余地がありません。「ハウス・オブ・カード」のフランク・アンダーウッドなんて彼の足元にも及びませんね。映画史に残る悪役でしょう。

市長・検察・警察の戦いは、二進も三進もいかなくなった末にカタストロフを迎えます。非常に好きな着地点です。なるほど息苦しい男社会の行き着く先がそれかと。あそこまでいったらハッピーエンドになるはずがないんですね。「こうなる予感がしてたんだ。」とは主人公の吐き捨てた言葉ですが、ある意味で「予定調和」であるこの物語の結末として非常にしっくりきました。見栄を張り合い、プライドのために破滅していくホモソーシャルな政治劇の中で見える一筋の光が、結局のところ、男同士の"擬似的"な愛の関係なのです。兄弟として契りを交わしたはずの二人が、欲に溺れて決裂し、死の瞬間に自らの手で捨ててしまった愛の大きさを知る。どうしてこうなったんだ、なぜこうも変わってしまったんだと絶望すると同時に、いつまでも昔のまま胸の奥底にしまい込んでいた「弟」への愛情を自覚するわけです。だからこの映画は、オス同士で集まったときに起こる厄介で幼稚な争いと、そうした環境の中で育まれていく兄弟愛という、男社会の光と陰を描いているのだと思います。非常に素晴らしい作品でした。大傑作です。