映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ブラック校則」感想

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ブラック校則、みた。超絶大傑作!ここで描かれている若者のリアルは「天気の子」や「映画 賭ケグルイ」の空気感に通ずる。悪法も法、正論であれ和を乱す人間は悪という抑圧。諦めと無力感。単なる大人vs子どもでは割り切れない病理。冷笑に負けるな、本気で欲しいものを取りに行け!熱い映画でした。

佐藤勝利はあれだけ顔立ちが整っていても"陰キャ"になっていたのが凄い。目が淀んでいて、覇気がない。わざとらしいキョドり感がないことに驚く。高橋海人も快演。決して「友人枠」に収まらない、ダブル主演の存在感。そしてモトーラ世理奈!一見〈反抗的〉な冷たい目つきに、実は傷つきやすい繊細さ。

担任の先生や吃音の森くんなど、脇役もキャラ立っている。ことね=堀田真由は若干性格ぶれている気がしたが、相変わらずかわいい。そして星田英利!「宮本から君へ」「見えない目撃者」に続きインパクトある役。邦画に欠かせないバイプレイヤーになりつつある。「鈴木先生」の山口智充的ないやらしさ。

ハリウッドで言えば「フットルース」のように、大人の押し付ける理不尽なルールに子どもたちがNOを表明する青春映画は昔から数多くあったが「ブラック校則」は毛色が違う。あえてSNSの描写をオミットしているが、掲示板のように機能する校舎の壁の"グラフィティ"は、可視化された〈ホンネ〉の世界だ。

決してリアルでは本当の気持ちを言わない。たとえ親しい間柄でも。とりあえず誰かが声を上げるのを待って様子見で乗っかろう。ダメそうだったらあくまでクールに「なに熱くなってんの」ってかわせばいい。その方が体力を使わなくても済むから。でも〈ホンネ〉を吐き出す場所は欲しい。だから字で書く。

「学校は社会の縮図」なんてよくいうけれど、まさしく「ブラック校則」の世界は、日本そのものだと思う。そうやってみんなで放ったらかしにしてたら、いつのまにか日本は落ちぶれてしまった。「誰がこんな国にした」って、それは無気力で諦めてしまったこの国の人全員なんですよね。校則も同じ。

「被害者であり続けることで、自分もまた新たな加害者になる」とは上野千鶴子の言葉だが「ブラック校則」で問われているのは、まさしく社会という無機質でダイナミックな流動体に生きる一人ひとりのあり方なのだと思う。「晴れ空が当たり前の世界より君を選ぶ」と叫んだ「天気の子」はそのひとつの解。

「映画 賭ケグルイ」でも理不尽なルールに振り回される少年少女の地獄を描いている。あの世界ではルールは絶対、レジスタンスはその枠の外側に飛び出すことでルールそのものを揺さぶり破壊しようとした。でも、敵の力が強すぎてかなわない。だったらどうするか。

敵が権力を握ってるからムリだと諦めるのは簡単だ。この世界の仕組みなんて簡単には変わらない。それなら知恵を絞り出し、あえてルールに乗っかればいい。一人ひとりの力は弱いけど、みんなで束になって飛び掛かれば、スズメバチを退治するミツバチの群れみたいに巨人を倒せる。それもひとつの解だ。

大人たちへのカウンターの象徴としてグラフィティやラップなどヒップホップのカルチャーが登場したのは印象的だ。こんなこと言うと雑な分析だと怒られるかもしれないが、それだけヒップホップ=ブラックカルチャーに根ざす抑圧感や息苦しさが若者の共感を呼ぶ社会に日本がなったということだろうか。