映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「アイヌモシリ」感想

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アイヌモシリ、みた。現代のアイヌ民族の生き様を阿寒湖畔に暮らす少年の視点から描く。キャストは全員アイヌアイヌ語の独特ながら耳馴染みのいい響き、鉢の火が跳ね、鉋で木が削れる音、カムイの森に積もる雪も優しく輝く。この雄大な自然が、神様が、そしてアイヌの血が自分を見守っている。傑作!

イオマンテという伝統儀式が物語の中心になっている。子熊を生贄として捧げるその残酷さゆえに、時代に馴染まずここ数十年は行われていない。その復活の是非について、〈将来〉の伝統の担い手である少年を主人公に据えて描くことで、アイヌに寄り添いつつもニュートラルな視座を獲得している。

主人公のカント(下倉幹人)の佇まいが良い。演技未経験らしいが上手かった。そしてデボおじさん(秋辺デボ)!彼もとても映える顔立ちをしている。ヒゲもかっこいい。かリリーフランキーとの共演シーンでも力負けしない迫力。縄文文化の色を残す伝統衣装と、雪山の景色の組み合わせが美しい。

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映画で触れられることはないが、アイヌ民族の歴史は、つねに本土からの迫害や侵略との戦いだった。特に近代化以降の「漂白化」は苛烈で、ここで文化の破壊が進んでしまったのは事実だと思う。現代ではアイヌ文化の保護・復興の動きも活発化しているが、一方で観光資源として消費されているのも事実だ。

ある種の観光コンテンツとして生かされている面も描きつつ、映画はアイヌ民族アイデンティティや誇りの観点から文化の存続について思考を促す。イオマンテを美化し過ぎず、その賛否について触れるバランス感覚が素晴らしい。「日本に生きる先住民」という切り口だけで見る価値アリです。