映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「バーバラと心の巨人」感想:なぜバーバラは「巨人」を見るのか?

こんにちは。じゅぺです。

今回は「バーバラと心の巨人」について。

f:id:StarSpangledMan:20181013210437j:image

バーバラと心の巨人」は、アメリカのグラフィック・ノベル「I KILL GIANT」が原作の青春ファンタジー映画です。

本作の主人公・バーバラは、一風変わった儀式に傾倒し、周囲から心配の目で見られている少女です。ニューヨーク郊外・ロングアイランドの家で、金融機関で働く姉と反抗期の兄とともに暮らしています。この家には父も母もいません。何らかの事情で彼らは3人で暮らすことを強いられているようです。姉のカレンは素直になってくれない妹に手を焼き、ほとんど心のバランスを崩しかけています。

そんな中、バーバラはクラスメートのイジメに目もくれず、人知れず世界中の不幸を背負って「巨人」と戦っています。誰も彼女の戦いに理解を示しません。それでも、この世界に危機が迫っていることを知っているのは私だけなのだと信じて、バーバラは一心不乱に「巨人」を倒す方法を探求するのです。物語は、そんな彼女の日常にイギリスからやって来た転校生・ソフィアが入り込んでくることで転がり始めます。

この映画の最大の魅力は、まるで迷路のように現実と虚構の入り混じった童話的世界観でしょう。いい意味で「中二病」的なんですよね。世界の始まりの物語とか、巨人と戦う勇者とか、世界の命運を握る必殺武器とか、そういう幼稚で大げさな神話的モチーフが散りばめられていて、いかにも斜に構えた女の子の作り出した内省的な空間がスクリーンに広がります。文字だけで表現すると痛々しい感じがしますが、崖の上にあるバーバラの家と、そばにある深い霧に包まれた森というシチュエーションがすでにファンタスティックで、これが北欧神話的な空気を漂わせているので「もしかしたら本当に巨人がいるのかも」と思わせる舞台設定になっているのです。

なぜバーバラには「巨人」が見えているのか?そして「巨人」は本当に存在するのか?が中盤以降物語をドライブしていく謎になっていきます。あえて今回の記事では革新には触れないことにしますが、一つ言えることは、バーバラにだけ「巨人」が見えているのは彼女が人一倍傷つきやすく、繊細で、愛に溢れている子だからだということです。心が豊かだからこそ、世界中の不幸を想像し、一人で背負って戦おうとしてしまうのです。決してバーバラが変人だからでも、弱い人間なのだからでもありません。そしてバーバラを心配する人びともそのことはわかってるんですよね。転校生のソフィアも、カウンセラーのモル先生も、姉のカレンも、エキセントリックな行動に振り回されたり、乱暴な言葉に傷つけられたりするけれど、決してバーバラを見捨てず、混乱した世界から救おうと手を差し伸べるのです。彼女が美しい心をもった純粋な少女であることを信じているんですよね。僕はこのことに気づいたとき、なんて優しいお話なんだろうと思いました。最初に行ったとおり、まさしく「童話的」な映画になっています。ストーリーとビジュアルが有機的に結びつき、情感豊かで心温まる余韻を残す良作です。すばらしい映画でした。