映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「裁かるるジャンヌ」感想:ジャンヌ・ダルクは英雄なのか

こんにちは。じゅぺです。

今回はカール・テオドア・ドライヤー監督の「裁かるるジャンヌ」です。

f:id:StarSpangledMan:20190205000531j:image

裁かるるジャンヌ」は実際の裁判記録をもとにジャンヌ・ダルクの異端審問から火刑に至るまでを描く伝記映画です。ジャンヌ・ダルクをテーマにした作品はロベール・ブレッソン監督「ジャンヌ・ダルク裁判」やミラ・ジョヴォヴィッチ主演「ジャンヌ・ダルク」など数多く製作されていますが、その中でも本作は特殊な作品と言えるでしょう。

 

ナラティブの必然性

裁かるるジャンヌ」のおおきな特徴となっているのは、その極端なクローズアップです。サムネイルの画像を見てもらえればわかるように、人物の顔が画面のほとんどを占めています。しかもこの映画はサイレントですので、セリフも必要最小限しかありません。というわけで必然的にジャンヌや司祭の表情の変化からすべてを読み取ることになります。その分、表現される人物の感情の密度や彩度も高く、他の映画にない重厚感と迫力を醸し出しています。観客とジャンヌの距離はこれ以上ないぐらい近いのです。堪え難い屈辱に晒され、死の恐怖と絶望に顔を歪めながら、それでも信仰を貫こうとするジャンヌ。齢19にして人生の全てを否定される苦痛に耐えかねて涙を流し続ける彼女の心と自分の心が共鳴している気がします。あまりにも陰惨で呼吸が苦しくなってしまいました。

ドライヤー監督は本当にジャンヌという人間を丸裸にしようとしていたのではないかと思います。だから彼女の全てを見せようとしたのでしょう。ジャンヌを演じた女優はすっぴんで撮影に挑んだそうです。ほかの監督だったら躊躇したくなるところまでフィルムに刻んでいます。まさか丸焦げの炭になるところまで見せるとは思いませんでした。本気で気分が悪くなりましたよ。映画を見ていて吐き気を催すなんて本当にひさびさの体験でした。その分だけ、歴史上の資料からしか読み取れないジャンヌという人間の存在を近くに感じ、彼女の苦しみや葛藤に想いを巡らせることができたのではないかと思います。

 

ジャンヌ・ダルクは英雄なのか

このようなアプローチをとっていることから分かるように、本作はジャンヌを英雄視しません。運命に抗うこともできず、最後は恥辱の中で炭になっていく、憐れな少女を冷酷に写すだけなのです。しかし、そこから逆説的に導かれるのは、彼女は人間の世界に生きるにはあまりにもピュアで美しすぎる心を持っていたことだけは事実です。教会権力の側から見れば狂気の沙汰ですが、ジャンヌにはたしかに特別な力がありました。少なくとも、当時彼女を直接見た人はそう感じたのでないでしょうか。「裁かるるジャンヌ」でも、ジャンヌはふとした瞬間、聖女にしか見えない気高き美しさを見せます。このまっすぐさこそが彼女の神性の源泉だったのかもしれません。ジャンヌ・ダルクという人間に興味が湧いてくる映画でした。