映画狂凡人

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「茄子 アンダルシアの夏」感想:自転車は最高の孤独空間

こんにちは。じゅぺです。

今回は「茄子 アンダルシアの夏」について。

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「茄子 アンダルシアの夏」は、高坂希太郎の初監督作です。高坂希太郎といえば、先日レビューした大傑作「若おかみは小学生!」の監督ですね。たいへんすばらしい映画だったので彼の作品をもっと見たいと思っていたところ、この作品に出会いました。高坂希太郎って劇場公開作品は「茄子 アンダルシアの夏」と「若おかみは小学生!」しか撮っていないんですね。50分程度の長さながら、見応えがありました。以下、簡単なレビューです。

「茄子 アンダルシアの夏」は、アンダルシアの自転車競技レースに挑むぺぺとその家族たちを描くスポーツ映画です。この映画はちょっと変わっていて、あいまにドラマパートを挟みつつも、基本的にはぺぺのレースと彼の内面の葛藤だけを描きます。非常にシンプルな構成ですが、それゆえに力強く、骨太な内容になっています。

見どころは高砂監督自身も趣味にしているという競技自転車のリアルで生き生きとした描写でしょうか。とっても濃密です。ペース配分とコース取りを計算して走る緻密さ、先を読み勝負を仕掛ける大胆さ、そして、己の体力の限界に挑む精神力。自転車を漕ぐという動作の中にも複雑な動きと計算が必要で、選手によって個性もある。それをこの50分ほどの尺に詰め込んでしまうのがすばらしい。ほとんど偏執的なこだわりのおかげで、この競技の奥深さに少し触れられた気がします。

そんな戦いの最中にぺぺの頭の中を去来する故郷を離れて、もっと遠くへという想い。自転車を漕ぎながらつい逡巡してしまうぺぺの気持ちはわかるんですよね。自転車に乗っていると、車や電車と違ってすべてが一人で完結するので、基本的に孤独です。それでいて身体は外気に晒されている。外にいるのに自分だけの空間が出来上がっている。そうなると、暇つぶしにいろいろと思考を巡らせたくなるわけです。ぺぺがレースを通して葛藤に折り合いをつけていく過程を、僕はまるで自分も自転車を漕いでいるかのような気分で見ていました。身体的な感覚を刺激するような躍動感がこの映画にはあったと思います。

クライマックスのアンダルシア市街を自転車集団が駆け抜けるシーンもカッコよかったです。だれが1位になるか全く読めないデッドヒート。ほんとうの最終局版になるとタッチが変わる演出も、意外性があって面白かった。そしてレースの終わりとともに、ぺぺは自らに課していた呪縛から解き放たれ、ひとつの上のステージへと成長していくのです。ラストが清々しく、なぜか僕まで達成感に浸ってしまいました。50分と短いので、また見返そうと思います。